カーボンニュートラルを推進するにあたり、最初の関門となるのが、現状のCO2排出量の算定です。
CO2排出量の算定方法は、実は国際的な基準があり、日本においてもその基準に沿って行うことが求められます。
排出量算定の基礎的な部分からよくある質問、具体的な進め方について解説します。
脱炭素の進め方
まず初めに、脱炭素の進め方を理解しましょう。
いきなり排出量算定から取り組むのではなく、脱炭素推進の全体像における排出量算定の位置づけから理解することが重要です。
STEP1.脱炭素・気候変動対策に取り組む意義理解・目標設定
脱炭素の推進には、トップである経営陣の強い推進力が必要不可欠です。
まずは経営陣が脱炭素に取り組む意義をしっかりと理解し、会社全体で取り組む目的を設定します。
STEP2.現状のCO2排出量の算定
排出量算定はこの部分です。SCOPE1~3(後ほど解説)の分類で、具体的にどの割合が多く占めているかを数値化することが、その後の排出量の削減に向けた重要なステップです。
STEP3.CO2排出量削減の戦略策定(ロードマップ策定)
現状の排出量をもとに、何年までにどれくらい排出量を削減するかの目標を設定します。そして、その目標達成に向けた具体的な削減施策を、目標年から逆算して構築します。
STEP4.CO2排出量削減施策の実施
ロードマップをもとに、個々の削減施策を実施していきます。省エネ、燃料転換、再エネ電力の調達を柱に進めていきます。
STEP5.外部への情報発信
取組を実施したら、必ず外部への情報発信をしましょう。自社の脱炭素の取り組みを、環境報告書の作成、認定取得、WEBサイトへの掲載などを行って、ステークホルダーや金融機関にアピールすることが重要です。
温室効果ガスの排出量算定方法~SCOPE1,2,3とは~
(出典:環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム)
カーボンニュートラルについて話をしていると、SCOPE1,2,3というワードを聞いたことがあると思います。
SCOPE1~3とは、GHGプロトコルで定められた温室効果ガスの排出量を算定するための分類・枠組みです。
GHGプロトコルは、温室効果ガスを算定・報告する際の手順を定めた国際的な基準であり、これに沿って算定・報告することで、日本国内だけでなく世界において信頼できるデータとして公表することができます。
この特徴は、自社から排出されたものだけでなく、サプライチェーン全体における排出量もカバーしている点にあります。
大きく分けると、SCOPE1,2が自社から排出された排出量、SCOPE3が自社以外のサプライチェーンから排出される排出量を指します。
- SCOPE1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
- SCOPE2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- SCOPE3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
中小企業はSCOPE1,2,3のどこまで算定が必要?
中小企業においては、まずはSCOPE1、2の算定に集中することが一般的です。将来的には、中小企業においてもSCOPE3まで算定する必要がありますが、SCOPE3の算定はより時間とリソースがかかるため、段階的に取り組むことが推奨されています。
しかし、例外的に中小企業においてもすぐにSCOPE3の算定まで必要なケースはあります。
それは、「SBT認定を取得したいが、中小企業版SBTの対象外である」というケースです。
(逆に言えば、そうでない場合は、まずはSCOPE1,2の算定を行えば現状では十分と言えます。)
国際認定であるSBTには、おもに大企業等が対象となる通常版と、比較的ハードルが低い中小企業版の2種類があります。
中小企業版SBTはSCOPE1,2まで算定すればよいのに対し、通常版SBTについてはSCOPE3まで算定する必要があります。
中小企業版SBTにおける中小企業の主な条件は以下の通りです。これに該当しない場合は、通常版SBTでの申請となり、SCOPE3まで算定する必要があります。
【中小企業版SBTの対象企業】
- 従業員数が500名未満
- 非子会社
- 独立企業である
排出量算定の具体的な進め方
自社において、どの活動がSCOPE1,2に該当するかを明確にしたら、いよいよ実際のデータ収集・算定に移ります。
排出量算定の進め方は、大きく4つのステップに分かれます。
STEP1~4の順序で、下の画像のようなリストを作成するイメージです。
STEP1.保有している設備の型式・台数を把握
まずは、事業所内に設置されている設備の型式・台数の把握から始めます。
ユーティリティと生産設備両方について、漏れなく把握していきます。
STEP2.設備のエネルギー種類・使用量を確認
次に、各設備のエネルギーの種類・使用量を確認します。電気を使用しているのか、重油を使用しているのかなどのエネルギーの種類を表にまとめます。
また、各設備の銘板を見ると(もしくはインターネットで検索すると)、定格消費電力などのデータが記載されているので、こちらも記録します。定格消費とは、設備がフルで稼働したときの消費エネルギーの目安です。
STEP3.設備の稼働状況を確認(稼働時間・平均負荷率等)
次に、設備の稼働時間と平均負荷率を記録します。稼働時間とは、電源をオンにしてからオフにするまでの時間を指します。現場の稼働状況をヒアリングし、年間で何時間稼働しているのかを算出します。
また、平均負荷率とは、設備が能力に対して何%で稼働しているかをパーセンテージであらわしたものです。設備は常に能力最大値で稼働しているわけではないので、能力に対して平均どれくらいの出力で運転しているのかを計算します。
STEP4.CO2排出量を算定
最後に、STEP3までで集めたデータをもとにCO2排出量を算定します。
CO2排出量の計算方法は、以下の通りです。
CO2排出量 = 活動量 × CO2排出係数
・活動量=設備エネルギー使用量(kW等)×設備稼働時間(h/年)×平均負荷率(%)
・CO2排出係数:環境省によって公表されたデータを使用(https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc)
以上のSTEP1~4に沿って、各設備のCO2排出量を算出します。
最終的には、グラフ化してSCOPEごとの割合や、排出量の多い設備等を明確にするところまで行いましょう。
工場の脱炭素化に向けた簡易省エネ診断実施中
脱炭素の一環として重要な要素のひとつが「省エネ」です。
これまでもすでに実施してきた企業様が多いと思いますが、現状どれくらい省エネの余地があるのかを定量化することは非常に重要です。
弊社では、皆様の工場の省エネポテンシャルを診断する「簡易省エネ診断」を実施中です。
具体的な流れは以下の通りです。
STEP1.簡易省エネ診断で実施することを確認する事前面談
STEP2.診断に必要な書類の提出
STEP3.現地を訪問した簡易診断(半日/1工場)
STEP4.診断結果の報告
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